睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、睡眠中に繰り返し呼吸が停止または減少する現象を指します。
これは、喉の筋肉が緩み、気道が一時的に狭窄・閉塞し、十分な酸素が体に供給されないことが原因です。
SASの典型的な症状はいびき、日中の過度の眠気、集中力低下などです。
重度の場合は、心臓病や脳血管疾患のリスクが高まることがあります。
SASの治療法は大きく分けて保存療法と外科療法がありますが、当院では上下顎の歯列に一体型となった口腔内装置(OA)を就寝時に装着していただく保存療法を行っています。
装置を就寝時に装着することによって、下アゴが前に出て気道を広げることを目的としています。
口腔内装置
OA
口腔内装置(Oral Appliance: OA)は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)やいびきの治療に使用される治療器具です。
OAは、通常、下顎を前方に移動させることで気道を拡張し、無呼吸の発生を抑制する働きをします。
また、舌の後ろに圧力を与えて、舌の後退を防ぐこともあります。
OAのメリット
OAの利点は以下の通りです。
- 持ち運びが容易で、旅行や外泊の際にも使用しやすい。
- いびきが静かになり、周囲の人に迷惑をかけにくい。
- 使用法が簡単で、装着・取り外しが容易。
- CPAP(持続陽圧呼吸療法。特別な装置が必要)と比較して、顔にマスクを装着しなくて良いため、装置に対する違和感が少ない。
しかし、OAにもいくつかのデメリットがあります。
- 効果には個人差があり、一部の患者には効果が現れない場合がある。
- 矯正装置と同様、装置の圧力が歯や顎関節に影響を与えることがある。
- 唾液の分泌量が減少し、口の乾燥や不快感を感じることがある。
- 定期的な調整やメンテナンスが必要。
OAは、軽度から中等度のSASに適した治療法であり、特にCPAPが適用できない、またはCPAPに抵抗感を持つ患者様に対して効果的な選択肢となります。
ただし、重度のSASや顎関節症がある患者には、適切な治療法を選択するため、他の治療法を検討することも必要です。
OAを保険適用で作成するために
OAの作製には、正確な診断と装置の調整が必要です。
保険適応での口腔内装置(以下OA)を作製するには、まず専門機関で検査(主にPSG検査)を受けて頂く必要がございます。
測定項目にもよりますが最近では精密なPSG検査を入院せず自宅で受けることができるようになり検査へのハードルが下がりました。詳しくは専門および実施機関へお問い合わせください。
検査機関でSASの診断書またはOA作製依頼などの紹介状が必要となります。
依頼書または紹介状がなければ、OAの保険適応はできません。(ただし、自費診療での作製は可能です。)
OA使用の際の注意点
OAの適合性や患者の症状に応じて、定期的な調整やメンテナンスが行われます。
OAを使用する際は、正しい使い方とケア方法を守ることが大切です。
以下のポイントに注意してください。
- 歯科医師の指示に従って装置を正しく装着し、使用してください。
適切な装着が重要であり、間違った装着方法は効果が薄れるだけでなく、口腔内への悪影響も与える可能性があります。 - 装置を毎日使うことで、最も効果的な治療が期待できます。
適切な頻度で使用しないと、効果が現れないことがあります。 - OAは、定期的に歯科医師による検査や調整が必要です。
これにより、装置の状態や効果を確認し、必要に応じて調整が行われます。 - クリーニングとメンテナンスも重要です。
装置を毎日清潔に保ちましょう。クリーニング後は、乾燥させてから収納してください。 - OA使用中に痛みや違和感が続く場合は、ご相談ください。
装置の調整や問題の解決が必要かもしれません。
口腔内装置は、適切な使用とケアが行われることで、睡眠時無呼吸症候群やいびきの症状を軽減する効果が期待できます。
しかし、効果が個人差があるため、最適な治療法を見つけるには、症状の経過や治療効果を評価することが重要です。
一般的な保存療法
保存療法は、外科的手術を行わずにSASを改善する方法で、一般的には以下のような治療法があります。
- 01体重の管理
- 肥満が原因でSASが発症することがありますので、適切な体重を維持することが重要です。
- 02横向きでの睡眠
- 仰向けで寝ると、重力の影響で舌や軟口蓋が喉に圧迫されやすくなります。横向きで寝ることで、気道の圧迫を緩和し、SASを軽減できることがあります。
- 03睡眠時の口腔内装置(OA)
- 歯科医が作製するOAは、下顎を前方に移動させることで気道を開放し、無呼吸の発生を防ぎます。
- 04連続陽圧呼吸療法(CPAP)
- CPAPマシンは、鼻や口に装着したマスクを通して一定の圧力で空気を送り込むことで、気道を開放し無呼吸を防ぐ装置です。 これにより、睡眠の質を向上させることが期待できます。
- 05薬物療法
- 睡眠時無呼吸症候群の原因によっては、鎮静剤や抗うつ薬を処方することで症状の緩和が見込まれる場合があります。
保存療法は症状や原因に応じて選択されるため、適切な治療法を選ぶことが重要です。
複数の治療法を試すこともありますが、保存療法が効果的でない場合や、症状が重篤である場合は外科療法が検討されます。
外科療法(当院では行っておりません)
外科療法は、経口的または鼻咽頭的手術により気道を拡大・安定させ、無呼吸発生を防ぐ目的で行われます。
具体的な手術法には、扁桃腺摘出術、軟口蓋・咽頭・舌根の手術などがあります。
また、顎の形成異常が無呼吸の原因である場合は、顎の手術が必要になることもあります。
ただし、外科療法にはリスクが伴いますし、治療効果が保証されるわけではありません。
そのため、保存療法と外科療法のどちらが患者にとって適切かは、医師と相談しながら慎重に決定することが求められます。
※当院では外科療法は行っておりません。
SASを予防するために
- SASの予防策としては、次のような生活習慣の改善が推奨されます。
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- 1:アルコールや睡眠薬の摂取を控える
- アルコールは筋肉を緩める作用があり、喉の筋肉の緩みを助長し、無呼吸のリスクを高めます。
- 2:禁煙
- 喫煙は、気道の炎症を引き起こし、無呼吸のリスクを高めることがあります。
- 3:定期的な運動
- 適度な運動は、体重管理に役立つだけでなく、無呼吸のリスクを低減させます。
- 4:適切な睡眠習慣
- 寝る前のリラックスタイムを設けたり、一定の就寝時間・起床時間を維持することで、睡眠の質を向上させることが期待できます。
以上のことから、SASの治療および予防には、適切な生活習慣の改善と医療的なアプローチが重要です。
症状がある場合は、専門の医師や歯科医と相談し、適切な治療法を見つけることが大切です。
睡眠時無呼吸症候群は
ご自身ではなかなか気づきにくい病気です
SASは、個々の患者の症状や体質によって異なる対処法が求められます。
そのため、症状や治療法に関する情報を積極的に収集し、医師と密接に連携して治療計画を立てることが、症状の改善に繋がります。
また、家族やパートナーがSASの症状に気付くことが多いため、周囲のサポートも重要です。
SAS患者の心身の負担を軽減するために、家族や友人が理解と協力を示すことが大切です。