症例紹介
症例紹介:歯周外科(遊離歯肉移植術)およびジルコニアクラウンについて
こんにちは。三重県伊賀市にある歯医者「矢谷歯科医院」です。
今回の症例コラムは、当院で行った臼歯部への歯周外科およびジルコニアクラウンについて症例を通してお伝えしようと思います。何故このようなことをしないといけないのか?などをお伝えして、歯の寿命を少しでも引き延ばしいつまでも自分の歯で過ごせるすばらしさをお伝えできたらと思います。何か同じようお悩みをお持ちの患者様が少しでもご参考にしていただき、勇気をもって一歩前に踏み出せるようにしていただけたら幸いです。
目次
症例紹介
患者様は72歳、女性の方で主訴は「奥歯の隙間に物がよく詰まり歯ぐきが痛いことがある」とのことでご来院されました。
口腔内を診させていただくと、左上の奥歯に両方とも銀歯を被せており、虫歯(縁下カリエス、歯ぐき(歯茎)の下の方まで虫歯が進行してしまっている状態のこと)によって銀歯と歯との境目に穴の隙間ができ、そこに食渣やプラークなどの汚れが溜まることによって歯ぐきが炎症を起こし(歯肉炎)、歯ぐきの痛みや腫れが生じる状態となっていました。
詳しくは当院ホームページの歯周病治療のところを参考にしてくださいね。
虫歯がどのような状態なのか、歯を残せるのかどうか判断するためにまずは銀歯を外して歯の状態を確認していきました。残念なことに左上の一番後ろの歯(左上7)は虫歯の進行状況が著しく保存困難のため抜歯に至ってしまいましたが、他の歯は保存できると判断しました。
また患者様の口腔内において、もう一つ問題がありました。それは角化歯肉が少ないということです。
けっこう専門的な話になるのですが、口腔内の歯茎を構成する角化歯肉(遊離歯肉+付着歯肉)と歯槽粘膜からなります。写真では色が薄いところが角化歯肉になり、色が濃いところが歯槽粘膜になります。
角化歯肉と歯槽粘膜それぞれの特徴
角化歯肉
上皮:厚く、角化した上皮
結合組織:密なコラーゲン線維に富む
血管:少ない、細い
炎症の波及:広がりにくい
上記を簡単にまとめて言うと「強い歯ぐき」ってことになります。
歯槽粘膜
上皮:薄い、非角化(または錯角化)上皮
結合組織:弾性線維に富む、疎性結合組織
血管: 多く、太い
炎症の波及:広がりやすい
上記を簡単にまとめて言うと「弱い歯ぐき」ってことになります。
強い歯ぐき(角化歯肉)が少ないと何故いけないの?
次に強い歯ぐきが無いとどのような弊害が起こってくるかについて下記に羅列します。
- 歯肉退縮を起こしやすい:弱い歯ぐきだと経年的に歯ぐきが下がりやすい
- 清掃不良を起こしやすい:弱い歯ぐきに歯ブラシを当てると痛くてちゃんと磨けない
- 歯間離開
これらのことによって起こる症状として、
- 知覚過敏:歯がしみやすくなる
- 楔上欠損:歯の根元が削れやすい
- 根面カリエス:歯の根元が虫歯になりやすい
- 歯周炎:歯周病になりやすい
- 補綴物マージンの露出:被せ物と歯の境目が露出する。
- 歯間乳頭の喪失:歯と歯の間の歯茎が下がって審美的問題を起こす。
参照:小野善弘 著 「コンセプトをもった予知性の高い歯周外科処置」クインテッセンス出版株式会社
以上のことを考えた時に、患者様の歯を長期的に保存ししっかりと歯磨きをしていただける環境にするためには強い歯ぐきを作る必要があり、そのためには歯ぐきの移植が必要でした。それが遊離歯肉移植術になります。
遊離歯肉の採取部位
遊離歯肉移植術は上あごの内側(口蓋側)から採取を行い、移植部へと張り付ける治療法となります。
採取部位に関してはコラーゲン膜を張り付け、保護床を装着して採取部位の保護を行います。
歯肉弁根尖側移動術および歯冠長延長術
手術時は歯肉弁根尖側移動術および歯冠長延長術を併用して遊離歯肉移植術を行いました。
虫歯の除去や歯冠長の延長など詳細は「症例紹介:歯周外科およびジルコニアクラウンについて」(2023年11月8日投稿)に詳しく解説しており、虫歯の除去や歯冠長の延長などは同じ手技を用いているのでこちらを参考にしてくださいね。
遊離歯肉の採取と移植
先ほども述べたように遊離歯肉を口蓋側から採取してきました。採取した移植片を手術部位の外側に張り付けて縫合糸で固定しています。採取した口蓋側のところはコラーゲン膜にて保護しています。
歯ぐきの移植の術後経過
写真でもわかるように日を追うごとに移植した歯ぐきが周囲の組織となじんできていますね!
手術前と手術後の写真を見比べると、強い歯ぐき(付着歯肉)がしっかりと出来上がっており、歯肉退縮を起こさずブラッシング時も痛くないのでしっかりと歯のケアを行うことができますね!それプラス歯冠長の延長もしておりますので、手術前に比べると手術後の歯がしっかりと出ておりこれなら外れにくく、虫歯になりにくい被せ物をつくることができます!
コア(土台)の作製とシェードテイキング
あとは手術後よりおよそ半年間まってから被せ物の作製をしていきました。歯の土台を作製し、しっかりと歯の型どりと周りの歯の色調に合わせるために色の選定(シェードテイキング)を行いました。
ジルコニアクラウン装着
最終的にはジルコニアクラウンを装着しました。臼歯部で噛む力が大きくかかるので、割れにくく白い歯を入れるためにも、ジルコニアクラウンを選択させていただきました。ジルコニアクラウンにはそれぞれのランクがあるのですが、症例ではジルコニアクラウンのプレミアムタイプを装着しています。
ジルコニアクラウンのプレミアムタイプはジルコボンドとも呼ばれており、ジルコニアの素材の上にセラミックを盛ることによって、細部にわたって患者様自身の歯に自然で調和した被せ物をすることができます。まさに強さと美しさを兼ね備えた被せ物をなります。また精度の高い被せ物をすることによって二次カリエスを防ぎ、今回の主訴でもあった、食べカスが詰まるということを無くすことができます。それぞれの素材や特徴については当院ホームページの診療メニュー:審美治療のところに掲載しておりますので、よければそちらを参考にしてくださいね!
治療費について
今回の治療費に関しては遊離歯肉移植術:¥110,000-(税込み)~、ジルコニアプレミアムタイプ(1本:¥93.500-)、保険診療分+αになります。遊離歯肉移植術に関しては歯の本数や移植片の長さによって変動してきます。
自由診療と保険診療の違いについて
今回の遊離歯肉移植術に関しても、保険診療ではできなく自由診療となります。保険診療ではできる治療が限られているのですが、自由診療ですとたくさんある治療方法から患者様に選択していただけますので、私が思ういい治療をご提案することができます。今回の症例においても今の私がご提案できる中で最高の治療を提案させていただきました。
歯ぐき(歯茎)の重要性
症例を通して、歯を長期的に保存するために歯ぐきの重要性の観念からお伝えさせていただきました。写真だけを見ると何か怖いことをやっていそうや、何か治療が大変そうだと思うかもしれないのですが、実際に治療させていただいた患者様からは意外と痛みが無かったなどのお声を頂戴しております。手術に関しては長時間わたりお口を開いていただかないといけませんので、時々休憩しながら治療させていただいております。また今回の話は自分の歯だけではなくインプラント治療をする際にも同じようなことが言えます。インプラントにおいても長期予後のためには歯ぐきが重要になってきます。
まとめ
今回は遊離歯肉移植術とジルコニアクラウンを装着した症例を御紹介させていただきました。いつまでも自分の歯で過ごしたいものですね!しっかりと治療したいや他院で抜歯と言われた歯を何とかしたいなど何かございましたら、三重県伊賀市にある歯医者「矢谷歯科医院」に是非、御相談ください。